今日も風呂後トイレに行った

※実際はシャワーばかり浴びるし、身になる話は何もない

都合よく名字になったり名前になったりする

 
 今日ドクターマーチンを買わなかったらもう一生買わないかもしれないと衝撃を受けたのでオッケーGoogle、ここからドクターマーチンとやってやったが位置情報をオンにしろと言うので普通にタイプしてググった。位置情報を常態でオンにしてるやつなんかいるのかよ、と30分ほど歩いたところに店舗があって、明らかにビレッジヴァンガードが好きそうなお姉さんに見守られつつ小一時間悩んでフォーマルな革靴を買った。帰ってクリームをつけて、次の日おそるおそる足を入れてみた。固すぎる。新幹線のアイスの方が熱でどうにかなるだけかわいげがある、甘いしおなかも満たされるし、靴ではおなかは満たされない。と思ったけど靴があればおなかを満たせるところまで歩けるので靴の方が断然優秀だった。柔らかくなりさえすれば。どうにか履いて上から見てみたら正面から見るよりあんまりかわいいので次の日3日くらい履けなかった。完全に靴擦れのせい。こんなに乱暴でかわいいものをおいそれと履くなんてできない、絶対ガムとか踏まないようにしようと誓い、ていねいに履いていたある日犬のフンを踏んだ。これだけソールが厚くてしっかりしていても足元のやわらかい感触ってわかるんだな、さすがドクターマーチン、と妙な感心をしたし、犬のフンは見た目乾いてても踏むと結構やわらかいんだというのを初めて知った。生まれてはじめて犬のフンを踏んだ日、全然クリムゾン的反骨心を持たなかったので私はものを大事にできないのかもしれなあと思った。おろして1週間も経たないある朝のこと。
 
 やおら彼氏と付き合う前の、ただの他人だったころのメッセージをすべて読み返した。知り合ってから付き合うまでの約3週間、ほとんどの時間どんなメッセージを返すか考えあっていたので結構な分量である。何がよくないってふたりして年末年始の冬休みを挟んでいるのがよくない。お互いメッセージをする以外することがなかった。おかげで途中を飛ばして読んでもログを追うのに4時間はかかる。昨夜私が就寝したのは朝4時である。どうしても寝つけなくて、読んでたら眠たくなるかと思ったのに全然だった。読めば読むほどこの人がいつから私のことを大事に扱ってくれていたのかがわかってしまい、それはそれは素敵なアハ体験をした。
 当時交際していた人に振られたばかりだった私は、自分にかまけてくれる人を一刻も早く探さねばまともに眠れもしないと、つい数時間前まで別れ話をつないでくれていたSIMカード用の箱からオッケーGoogle、彼氏 作り方の結果で彼氏づくりのトレンドがマッチングアプリであることを知った。やったらんかいと即登録してから間もなく、のちの彼氏となる男からのいいねが来たのだった。
 季節がふたつほど進むと付き合って3年になる。入学して卒業した人がまた入学したり、泣くばかりの乳幼児が達者に「猫が駐車場でごろんしてた」「おもちゃが出るバスボム買って」などと言うころあいである。この3年弱はとても楽しかった。うまくいくときもいかないときも、いろいろなことがあったと思う。「マンモスしりとりしよう」「なつかしいものをあげたら座布団1mol」「創作ルー大柴かるたしよう」みたいなくだらない話をしたこともあれば、どうすればわれわれの性交渉はもっとよくなるのか、あるいは仕事はどうするのかなどと話し合ったこともあった。なつかしいものから得る座布団は最終的に42molまで集まったけど何かと引き換えしないままなくなった。永久不滅molではなかったので年度の変わり目でリセットされ、そのままサービスは復活せず、あいさらば。かつての引き換えメニューによると3molで私が3段のトランプタワーをつくることになっていて、彼氏はそれを3回まで邪魔していいことになっていたり、20molで温泉旅行と引き換えられるようになっていた。永久不滅molだったら来月あたり使うんだけど、そもそもmolはこのような使い方をするのだろうか、よもやポイントカードとして機能させられるとは思うまいし、座布団たちだってまさかここまで集められるとは思わなかったろう。笑点に提供してスポンサーとして名を連ねたい。座布団をギャザーしてクイック最上リバー。
 付き合っている間、この人はほんとうに私を大切にしてくれているなあと思っているけどどうやらそれよりももっとずっと前から大事にしてくれていたらしい。付き合っていないどころかそもそも会ってすらいないのに、マッチングアプリで私のプロフィールを見たときからずっと大事に扱ってもらっていた。「いいねした日の夜中にいいねが返ってきて、嬉しくてすぐメッセージしようとしたんだけど、夜中だったから我慢した」信じられないことだ。そこは送ってこいやと思う。「プロフィールを見たときから、もしかしたら僕はこの人と、と思っていたよ」と言われたので、夜中メッセージを送ったら盛り上がりすぎて眠れなくなるかもと心配したのだろうか。朝な夕なおかまいなしに「ジャンヌダルク好きなんですか? 俺もです! DOLLSとかよくカラオケで歌います(^^)声高くて全然出ないですけど…(汗)こんな僕ですが仲良くしてください! よろしくお願いします!」なメッセージを送ってくる人々の机に墨と筆で書いてやりたいほどの気づかいであるが、いいねを返したあとメッセージがこないなと思っていたのもまた事実である。私も、きっとこの人と付き合うのだろうと思っていたので夜中メッセージが来ていたらやっぱり盛り上がって眠れなかったかもしれない。そう思うとこの判断は圧倒的慧眼。圧倒的感謝。利根川、感謝の海にダイブする。
 なにぶん振られたばかりだったので、それはそれは弱っていた。すべての価値観が根本的に違う人と付き合っていて、嫌われまいとどうにかそれに寄せようとしてしまったがために今まで自分がどんなことをどのくらいのステージで考えながら日々を過ごしていたのかなにも思い出せなかった。かつてかけられたマイナスな意味の言葉を反芻して、ああ言われたからああしないと成長できない、こう言われたからこうしないと変われない、このくらいできないといつまでもだめな自分のままだ、でももう別れたのだからそれらの言葉にとらわれる必要なんてもうないのではないか、でも、本当にこのまま変われないのならもう誰かと付き合ったりなんてしない方がいいんじゃないかとか、振り返れば難しいことばかり考えていた。今でこそ自分で自分に優しく声をかけてやれるけど、このときはどうやって自分を大事にしたらいいのかがわかっていなくて、ずれたやり方で自分のことを見てしまっていた。無理をしてでもがんばらなくちゃとかこの人はこうしてほしいみたいだからこうしなくちゃとか。当時はわからなかったけど、とてつもなくしんどかったと思う。ストイックな変化を他人に求められたように、もうそんな人はいないのに自分に変化を求めて、それをまた別の他人に求めようとする。付き合っていて、別れて、結局何が楽しかったんだろうな。どうにもできなかったのに、どこでどうしたらもう少しうまくやれたんだろうととりとめのないことが浮かんだり、言えるはずもないのに嫌いだったところを書き出しては数えていた。有り体にいうと引きずっていたのである。それはもう引きずっていた。
 のちに申告されることだが、彼氏は元彼を引きずる女が苦手である。元彼と天秤にかけられたあげく、必ず自分が軽んじられるからだと言う。実際に何度かそういう別れ方をしており、これもまた大変な性質だなあと思う。おかげで彼氏には元彼を引きずる女を察知するセンサーが発達し、私もまたその類いの女であると知られていた。日々の雑談メッセージの中で私は弱っていて、さらに混乱もしていたので、なんでもないただの世間話を妙な角度でとらえてしまい、勝手に傷ついたり、怒ったり、野犬よろしく食って掛かる。このときの私は健康からはほど遠く、完全にメンヘラの心持ちでいた。心身がささくれてしまってどうやっても立ち上がれなかったし、他人に優しくできない時期だった。誰かに心からの愛情で優しくされたかったし、懇ろにかわいがってもらいたかった。誰かにとって一番甘い存在でいたかった。だからメッセージが途切れないのをいいことに、彼氏に、それは間違っていると思うとかそれはこうすべきだと思うだとかずいぶんなことを言う。このときの私の考え方はあまりにも幼稚で今の私では受け入れかねる部分も多くある。彼氏は僕もそういうことあったよとか、たまたまボタンをかけ違えてしまっただけだから誰も悪くないよとか、変わりたいと思うだけでも変わりたいと思っていなかったから自分からは確実に変わっているからすごいことだよとか、そういうことを言っていた。元彼を引きずっている見ず知らずのメンヘラ、機嫌が悪いとなんにでも食って掛かる見境なし、しかも実在するかわからないし実在したとしてもアムウェイの勧誘かもしれない女にかくのごとき対応ができる男というのははたして世の中にどれだけ存在するだろうか。私がその立場なら3通目で返信をやめて即刻スクショを撮って墓場にアップするだろう。このころは自分のことで手一杯で彼のことを見る余裕がなかったが、2年半経ってから見ると、適した言い方が出てこないけど、ほんとうにていねいに扱ってくれたんだなとわかる。きっと結婚するのだろうという根拠のない予感を受けた相手が痛々しい状態、それも自分が苦手な引きずりタイプの人になっていたのに、じゃあ今の大変な時期を抜けられるように時間をかけてじっくり仲良くなったらいい、そのうちこちらに来るだろうと、どんなことを言われても投げ出すではなくどっしりかまえていられるのはある種の才能であろう。はじめてメッセージをもらってから約3週間後に付き合うこととなるが、その間ずっと私はふらふらしていたし、全然知らない人と食事をしてつまらなすぎると愚痴をこぼしたり、プロフィール文を変えたり、彼におもしろおかしいメッセージを送るかたわら、昔のことではべそべそしていた。
 私はこのときの彼の、相手の一番近いところから適度に干渉し、挙動を見て相手を知るという動きに正しい意味で救われたし、今こうしてのんべんだらりと文章を書けているのはまぎれもなくあの3週間があったからである。彼氏は、彼氏のテリトリーから私が自力でそこにたどり着くのを待っているのではなく、私のテリトリーのぎりぎりまできてお茶でもどう、かるたするかいと誘う、私がお茶に行くのがめんどうなのでじゃあ裏の川から汲んだ水をどうぞというと飲む、そしてどうでもいい話をする「次、鬼の目にもティアーズ!」「これ! ……は鬼にデビルスティック……?! 同じ文字で2枚もつくるとか欠陥品……!」。多分この、近くにきて同じ水を飲んでくれたというのが一番効いたのだろう。大量の時間と心と、全身でよりそってくれていたんだなとわかる。リアルタイムではそこまで感じ取れる余裕がなかったけど、今、あらゆる面で余裕を持っている私が読むとわかる。私が慰めてほしかったように慰めてもらって、存分に甘やかしてもらって、かわいい人として接してもらっていた。当時の彼にはほんとうに感謝してもしきれない。利根川、再度感謝の海にダイブ。次は泳ぎきります。
 
 とりわけよかったメッセージがある。「そういえば私はあなたの好きなものを知らない。なんでもよいので教えて」と送った返事の「ほとりくん好き。女性のからだも好き。読んだり人の話を聴くのも好き。話すのもたまに好きだね。女性の矯声も好き、あとは、ゲームも好きかな。梨も好き。映画とか海外ドラマも好き。好きな人とぼーっとするのもいちゃいちゃするのも好き。あ、好きな人が食べてるのを見るのも好き。からあげも…まあまあかな、カレーもまあまあ。くだらないことで笑い合ってるのも好き。頼られるのも好き。仕事も結構嫌いじゃないよ。たくさん書いたけど、あとは、うーん、わかんないや」「ほとりくんのことはぱっと一番に思いついたから一番に書いた」。人となりがどこまでもわかる素敵な文章である。これまでもこうしていろいろな人のことを大事にしてきたのだろうけど、それこそボタンのかけ違えでうまくいかなかったんだろうな、きっと勢いあまって大事にしすぎてしまうのかなとか、ご飯の趣味は少し子どもっぽくてかわいらしいなとか、穏やかでしあわせそうな風景が好きなのかなとかそういう風景に憧れているのかなとか、好きな人にはその人の弱い部分も見せてもらってちゃんと受け止めたいんだろうな、好きな人から信頼されたいんだなとか、あとは、僕はきみのこと好きだしその気持ちは誰に言っても恥ずかしくないものだと思っているよこんなこと言える人は今他にいないでしょうっていう自信とか。なんとも滋味深い、この返信がまだ付き合っていないときのものだというのがまたいい。この人のこと好きだなと思うし、この人は私のことが好きなんだなと思う。ちなみにこの2年半後、機会があってあらためて好きなものを書き出してもらったら「ほとりさん、何も考えないでのんびりしてるとき、ぼけっとしてるとき、物事が勢いよく前に進むとき」になっていた。いつでも一番に出てくるので気分がいい。私も好きなものを挙げたが上から「本、紙、本の帯、文字、手書きの文字、手紙、嶽本野ばら『シシリエンヌ』 」だった。ジャンルごとに並び替えたがための弊害。彼氏関連は下の方にまとまっていたのでここに書いておく。彼氏、夢の話を彼氏に聞いてもらう、彼氏がメモするの私の寝言シリーズ、彼氏のほほをさわること、デートの待ち合わせで手を挙げてあいさつするとき。など。彼氏と付き合いだしてからよく彼氏のほほをさわることについて、これは彼氏のことが好きだからやるんだ、と気がついた。好きでない人のほほになんてまずさわろうとも思わないし、友人のほほも中学生高校生時分ならいざ知らず社会人になったらさわらない。彼氏のほほだからさわりたいんだな、そしてそれは彼氏が好きだからさわりたいのだな、と、顔に手を伸ばすたびしみじみと感じる。そう言ったら「確かに、僕も好きでない人に顔をさわられようとしたら退いてしまう。ということは手を伸ばされるたび顔を差し出してしまう僕もほとりさんのこと……」まったくあたりまえ体操である。
 他によかったメッセージは「一応先に言っておくけど、次会うときには、と思っているよ。何がとは言わないけど、これだけは件の男の子ではなくほとりくんにだけ伝えておく」3週間のうちの終盤の数日間、他にもそれなりのアプローチをしてくれている人がいて、世間話のひとつとして教えていた。それを受けてか、はたまたただの安心材料を渡そうとしたのか予告してくれたわけだが何がよかったかというと、ターゲットになっている、会う前の日に念のため確認ができたこと。「酔っているので忘れるのですが、明日告白されるのでしょうか」「されますねえ。僕も少し酔ってるんですけど、明日の告白は成功するんですしょうか」「どうですかねえ。あなたがこりごりと言っていた引きずり女なので。対岸にいますよ」「そうね、ものすごく引きずってるね。でもなんでか今言わなくちゃと思ってるからねえ。好きなもんは好きだし、振られたらまあ、仕方ないから諦めるよ。ひとまず明日のデートは楽しみましょう」返しがすべて花丸である。予告の時点でほぼOKだろという状態であるにもかかわらず告白というプロセスを踏むためにこちら側に準備期間を設けてくれたこと、前夜の確認をそれは明日のお楽しみだよみたいにごまかさず真摯に答えてくれたこと、うまくいかなくてもデートとしては楽しみましょうという気づかいに見せかけてデートという単語を出すことによりプレッシャーをかけてくる自信とか、私が彼にとって苦手な属性の人になっていてもそれを凌駕できるほどの熱量があるからねというアピール、そういうところがよい。彼氏は穏やかなわりにある面では非常に冷たく、ルールに乗っ取った上で手段を選ばず行動することがたまにある。「もし振られたらどうしてた? 諦めるって言ってたけど実際諦めた? その後再起できてた?」と聞くと「1回振られただけで諦めるわけないじゃん。1000回振られてやっとあれ? あんまり脈ないのかなって思ってたと思うよ。ほら僕ストーカー気質だし、粘り強いから。虎視眈々と狙わないと」。やっとわかり合えたと思ったら高い塀に隔てられていた、みたいなことにならなくてよかった。私はさておき彼氏はボーダーの服が似合わない。ストライプの襟シャツがよい。付き合う前、たった3週間、何十年と続く人生の中のほんのわずかな時間に交わしたメッセージで、私は何度でもこの人のことを好きになる。
 
 近い将来に結婚するだろう。この「だろう」は結婚することに対してではなく近い将来という部分にかかる。彼氏がマッチングサイトに登録したのは捨てるに捨てられない「結婚してあたたかくしあわせな家庭を築く」という夢を叶えるためである。「ここに登録して結婚したいと思える人に出逢えなかったら一生ひとりで生きていこうと決めてたんだよ。ばりばり仕事して、残業も夜間対応もからだぶっ壊すくらいたくさんやって、会社からたんまりお給金もらったあげく30代で過労死して死んでからも会社からたんまりお金もらう予定だった。あわよくば飛行機で出張中に飛行機事故に巻き込まれたい」ような人なので、あのサイトに何ヶ月登録するつもりだっかは聞いていないけど、お互い登録早々に知り合えたことにも感謝せざるを得ない。そんな人が「長生きしたい」「婚約指輪のダイヤってどのくらいの大きさがいい? いくつつけたい?」と言い始めたので、何年かのうちに結婚する。よい家庭になるだろう。難しいことがあってもそのときの自分たちに適した対処ができるだろう。あらゆることを乗り越えて、ふたりで楽しいところへ行くに決まっている。お互いがお互いによい作用をしているのだから。
 
 例えばもしわれわれが出会っていなくて、彼が他の人と付き合っていたら私は今どうなっていたのだろうか。付き合いたいと思えるような人に会えていたのだろうか。彼は登録の目的である結婚を考えられるようになっていただろうか。考えたところで知るよしもない。ただ私も彼も会ってしまったし、おかげで人生は大きく様変わりした。すべてのことがうまく進んでいる。空が曇っていても明るくても、仕事がうまくいかなくても、靴下をおろした初日に穴が開いても、ドクターマーチンでよからぬものを踏んでも毎日が楽しい。こんな心持ちに今までなったことがない。でも、これからずっとこんな素敵な心持ちで生きていける。今確信しているのはそれだけだし、それだけわかればよいだろう。人生とはかくも奇怪なものである。私が生まれてこのように育つことができてよかったし、彼氏も生まれてくれて、そしてそのように育ってくれてほんとうによかった。彼氏にかかわってくれたすべての事象にお礼を述べたい。利根川はまた感謝の海にダイブする。